転嫁円滑化へ法令周知を徹底
公正取引委員会は、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化に関する調査結果を踏まえ10社の事業者名を公表した。コスト上昇分を取引価格に反映する必要性を交渉の場で明示的に協議せず、取引価格を据え置くなど独禁法の規定に基づき公表したものだ。
10社には物流関係で3社が含まれる。独禁法、下請法に違反、またはそのおそれを認定したものではないが、前回の同調査でも物流関係5社を含む13社を公表しており、物流関係事業者の公表が続いた。
今回、ベースとなった特別調査では、サプライチェーンの取引段階を遡るほど価格転嫁が滞り、トラック運送業など多重下請け構造が存在する特定の業種で円滑化が進んでいないことも浮き彫りとなった。
そうした物流の構造的な問題もあるが、公表された企業は特別調査で受注者から多く名前があがった発注者であり、その後の立入調査、個別調査を実施した上で行ったもの。社内全体に価格転嫁を進めるための方針を示していたが、受注者との窓口となる各担当者への浸透が不十分だった事例などを確認している。
一方で今回の調査は対象期間が2022年6月から1年間であり、対象期間後に受注者と価格転嫁を行う協議の場を設けた事例なども確認している。
公取委は今回の個別調査の結果も踏まえ、受注者からの価格転嫁の要請の有無にかかわらず、その必要性を交渉の場で明示的に協議することについて、さらなる周知を図るという。
適正な価格転嫁の実現へ、法令周知を社内外に徹底し、公平な取引関係構築を強化していくことに尽きる。
多重下請け構造にあるトラック運送業はとくに価格転嫁率が低い。労務費指針の対策や多重下請構造是正への措置など、取引環境改善への様ざまな方策が動きつつあるが、価転転嫁が一気に進まないのが現実だ。
今春闘でトラック関係の先行・大手組合の妥結状況をみると、前年実績を上回る賃上げとなったところは多いが、「満額回答」に「要求を上回る回答」も報じられる他産業、また規模による格差拡大が広まる懸念もある。
運賃水準の8%引き上げや荷役の対価などを加算した新たな標準的運賃が告示された。賃上げ原資の確保へ価格転嫁円滑化に向けた環境整備が進む。発注側の法令周知の徹底、受注側の粘り強い交渉が求められる。