格差是正へ危機意識を共有
トラックドライバーの時間外労働上限規制の適用から3カ月が経過したが、今のところ「ものが運べない」という大きな物流の混乱は聞かれない。しかしながらトラック運送事業者、とくに実運送を担う中小零細企業の倒産が増加傾向にあり先行き懸念される。
東京商工リサーチ(TSR)によると、上半期(1~6月)のトラック運送業の倒産件数は前年同期の1・4倍、194件(法的倒産と私的倒産を含む)となった。2010年以降の15年間では最多を更新する。「物価高」と「人手不足」問題が長期化する経営環境下、中小零細で事業継続が困難な事業者が相次ぐ。
倒産要因として多く見られるのが、燃料価格の高騰と人手不足。これは他業界にも共通するが、多重下請構造にあるトラック運送業は価格転嫁が進まない。コスト上昇に苦しむなか、労務負担が増え、業務効率が低下する悪循環にある。
TSRでは中小・零細の運送業の経営環境はいまだ厳しく、今後も倒産の増勢が続く可能性が高いとみている。
「人手不足」に限るとトラック運送業の倒産件数(TSR調査)は上半期37件で、年間ベース最多だった昨年実績(41件)にも迫る。とくに「従業員退職」と「後継者難」が急増しており、高齢化が顕著だ。
2024年問題は始まったばかりであり、実運送を担う中小零細のトラック運送業者がおかれる「物価高」、「人手不足」問題がクリアされなければ、「ものが運べない」状況も現実味を帯びることになる。
物流停滞の危機を避けながらも、事業者の倒産が増え、ドライバーの収入が減少する実態も表面化している。
インターネット上で法律情報などを提供するアシロの調査では、7月現在でトラック運送事業者の5割は4月の上限規制適用後も給与や働き方に「影響はない」と回答したが、「給与が変わった」と回答した人のうち6割弱は「給料が減少」と回答している。残業規制強化によるトラックドライバーの収入減という懸念も浮き彫りとなっている。
一方で同調査では24年問題を契機に「退職・転職を検討したか」に対し、8割が「ない」と回答し、多くは24年問題による不利益はないと考えていることも伺える。
コスト上昇分の価格転嫁をしっかりと推し進め、人材流出に歯止めをかけ、格差是正を促すよう、サプライチェーン全体で今一度危機意識を共有する必要がある。