「構造的な価格転嫁」実現を
トラック倒産件数が急増している。東京商工リサーチ(TSR)によると、5月の倒産件数は前年同月比120%増の46件、月次ベースでは2010年以降で最多となる。4月から時間外労働の上限規制が適用されたが、4月、5月は倒産の増加率が2倍超となっている。
倒産の原因をみると、「人手不足」、「後継者難」により事業継続を断念するケースのほか、燃料費の高騰などによる「物価高」関連倒産も多い。進まない価格転嫁が大きく影響している。
トラック運送業は他業種と比較して価格転嫁が進まない。民間調査等からは一定の転嫁の進捗はみられ、荷主も交渉に応じる動きにはあるが、
多くを占める小規模の下請けほどコスト上昇に価格転嫁が追い付かないのが実態だ。
燃料費の高止まりとドライバー不足の事業環境は長期化している。価格転嫁の遅れにより、人手不足への対応ができない悪循環にある。さらなる倒産件数の増加は物流停滞を招く。
11日に公表された政府の骨太方針原案には「重層的な取引構造にある業種を含め、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁が行われるよう、官民双方で取り組みをさらに強化する」との方向を示す。物価上昇を上回る賃上げの定着にも価格転嫁が施策の大きな柱となる。「労務費の転嫁円滑化に加え、商慣行の思い切った見直しを含め、業種・事業分野の実態に応じた価格転嫁対策に取り組む」方針だ。
昨年11月に内閣官房・公正取引委員会が公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」について、各業界団体で周知徹底を進めているところである。
トラック運送業は物流法改正で商慣行是正への環境整備も進むが、小規模事業者は足元の収益改善が待ったなしである。しっかりとコスト上昇分を転嫁できるようまさに現場の実態に即した方策が急務だ。
「骨太方針」原案には、中小企業が、取引・決算データを一括管理し、そのコスト構造を可視化、活用する形で価格転嫁を円滑に進めるよう年度内に実態調査を行うことが示されている。さらに価格転嫁円滑化の取り組みも実態調査を行い、転嫁率が低い業界には自主行動計画の策定や改定、改善策の検討を求めるとしている。
サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を継続する「構造的な価格転嫁」を新たな商慣習として定着化させることが肝要だ。