供給網全体で利益を共有

トラック運送業界全体での構造的な価格転嫁と、ドライバーの賃上げの流れを着実に広めるため、中野洋昌国土交通大臣は8日、全日本トラック協会の坂本克己会長に直接要請を行った。省庁連携し、取引適正化をはじめ荷主対策への措置を講じる一方で、トラック運送業界内においても、より自発的な対応を促す。
今春闘ではトラックの先行大手に続き、中小も前年を上回る賃上げがみられる。この流れを加速するためにも、原資確保の重要な要素である、適正運賃・料金の収受が必要不可欠だ。
トラック・物流Gメンによる荷主等への監視体制の強化や、4月1日に施行された改正物流法の運用、さらに下請法改正など、取引適正化への動きを追い風に、荷主等へ果敢な価格交渉を行い、さらなる価格転嫁に繋げたい。
中野大臣は「物流を持続的に発展させるには、エッセンシャルワーカーのトラックドライバーのさらなる賃上げが必要」とし、今回、とくに下請法改正の周知、商慣習の見直し、運賃上昇分のドライバーの賃上げへの反映を要請した。
下請法改正では、十分な周知と成立・施行前からの自主的な取り組みを求める。改正案には、対象取引に運送の委託が追加される。とくに元請は、荷主との交渉、トラック運送業界内での取引健全化へ果たすべき役割は大きい。そして多重下請け構造において、実運送にかかるコストを見据えた対応が求められる。
トラック運送業の価格転嫁率について、昨年9月の中小企業庁の価格交渉促進月間フォローアップ調査結果によると、全30業種中、トラックの受注側は30位、発注側は29位という状況だ。他の業種も含め、受注側企業の取引段階が深くなるにつれて、価格転嫁割合が低くなる傾向が鮮明になっている。
今回の要請文書には、「サプライチェーンの隅々まで価格転嫁を浸透させることは、サプライチェーン全体で利益を共有し、賃上げ・投資を促し、取引先に支えられる発注者自身の競争力強化になる」とし、幅広い業界で同時並行的に行うことが重要としている。トラックも構造的な価格転嫁へさらに踏み込むことが、業界全体の価値向上に繋がるととらえられる。
賃上げの原資確保に向けた価格転嫁の定着は、日本の成長型経済への転換を大きく左右するものだ。社会的インフラであるトラック運送業はこれに正面から向き合う必要がある。