供給網全体で適切な転嫁を

公正取引委員会が「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定した。発注者・受注者双方の行動指針として取りまとめ、これに沿わない行為で公正な競争を阻害する恐れがある場合は、独禁法や下請代金法に基づき厳正に対処することも明記した。
急激な物価上昇に賃金の上昇が追いつかない。 持続的な構造的賃上げの実現には、雇用の7割を占める中小企業がその原資を確保できる取引環境の整備が重要であり、その一環として内閣官房と連名で策定したものだ。
周知活動とともに公取では労務費の転嫁の協議に応じない事業者に関する情報を提供できるフォームを設置するなどより踏み込む。
12項目ある行動指針の内容をみると、発注者には価格転嫁を受け入れる取組方針を経営トップまで上げて決定し、書面など形に残る方法で社内外に示すことや、定期的な協議の実施、さらにサプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うなど明記している。
直接の取引先である受注者がその先の取引先との取引価格を適正化すべき立場にいることを常に意識して、そのことを受注者からの要請額の妥当性の判断に反映させる。
受注者にも相談窓口の活用や根拠資料の作成、そして発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示するなど交渉に前向きに動くことを促す。
発注者に提示する価格設定は、自社の労務費だけでなく、自社の発注先やその先の取引先における労務費も考慮することとしている。
とくに多重下請け構造にあるトラック運送業はこうしたサプライチェーン全体の適切な転嫁が強く求められる。
中小企業庁による9月の価格交渉促進月間フォローアップ調査結果(速報版)によると、トラック運送業のコスト上昇に対する価格転嫁率は前回の3月調査から上昇したものの全27業種で最も低い。価格交渉は行われても全く転嫁できなかった企業の割合は3割近くと最も高く、同割合が2割超の放送コンテンツ業、通信業とともに「労務費の割合が高い企業や重層的な下請構造で個人事業主も多い業種の構造的な課題がある」と指摘される。
24年問題が間近に迫るトラック運送業界は人材確保へあらゆる手立てを講じるが、賃金を上げても持続的に適正運賃を収受できなければ先行き経営は厳しい。発注、受注側も指針を周知し取引適正化を徹底させたい。