労働者の適切な処遇を確保
議員立法で今国会での成立を目指す貨物法改正案に、国土交通大臣が定める「適正原価」を継続して下回らないことを義務化することが盛り込まれた。適正原価を下回る運賃・料金を制限し、適正原価を支払わない荷主には、違反原因行為に該当するものとして是正指導する。
適正原価は「運行費、全産業平均の賃上げを踏まえた人件費、減価償却費、輸送の安全確保その他事業の適正な運営の確保に必要な経費、委託手数料、事業継続に必要不可欠な投資の原資、公租公課その他の通常必要と認められる費用」と定義する。適正原価の設定は運輸審議会に諮られ、現行の「標準的運賃」は廃止する考えだ。
標準的運賃は、トラック事業者が自社の適正な運賃を算出し、荷主との運賃交渉において参考指標となるよう2020年4月に告示された。24年3月までの時限措置を当面継続し、新たな標準的運賃を告示している。
しかし実勢運賃とは乖離がある。価格交渉の機運は醸成されつつあるが現実は厳しい。全日本トラック協会の直近の調査では、標準的運賃と比較したトラックの運賃水準は、「7割程度」との回答が最も多い(21・8%)。標準的運賃の7割以下の水準が全体の半分以上(54・8%)を占めている。
今回の貨物法改正案は、昨年12月に全ト協が「現場のドライバーの経済的、社会的な地位の向上へ新しい法律を我々の力でつくろう」と坂本克己会長が表明したもの。事業許可更新制など4本柱に検討を進めてきた。
この中に「標準的運賃を的確に収受できる法定根拠の付与」が示されていたが、新たに「適正原価」を定めることで、実運送事業者に対し正当な対価が支払われ、現場のドライバー、従事者への適切な処遇を確保する。
改正法案とともに、これを担保する特別措置法案には、許可の更新事務や適正化支援に必要な体制、財源措置とともに、政府が関係行政機関で構成する物流政策推進会議を設置することを盛り込んでいる。同会議の下に連絡調整を行う関係者会議を置き、事業者や労働組合関係者も入り、適正化措置を確実に実行する体制を整備する。
運輸労連の成田幸隆委員長は11日の全国単組労使懇談会で「真面目にルールを守る事業者が報われ、その働く価値が正当に評価されること」と改正法の意義に言及した。公正な評価に基づく労働者の適切な処遇をしっかり確保したい。