労務費の適切転嫁へ正念場
今春闘では大手企業で昨年を大きく上回る賃上げ水準の回答が相次ぐ。これが中小・小規模企業へ賃上げの裾野が広がるよう、政府は「労務費の価格転嫁」に関する取り組みに一段と力を入れている。
公正取引委員会は昨年末に策定した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」について、周知・徹底状況をフォローアップする特別調査を行うほか、取り組みが不十分な事業者を、独占禁止法に基づき事業者名を今月中に公表するという。
加えて、労務費指針の下、特に対応が必要とされる「道路貨物運送業」、「倉庫業」、「運輸に付帯するサービス業」を含む22業種について、所管省庁が自主行動計画の実施状況を把握し、策定・改定を加速させる。〝デフレ完全脱却〟の実現にも、中小・小規模事業者が賃上げ原資捻出のため、労務費転嫁へしっかりと交渉するまさしく正念場である。
労務費指針は適切な価格転嫁を新たな商習慣として、サプライチェーン全体で定着させるもの。1873の業界団体に指針の徹底と取組状況のフォローアップを要請している。さらに対応が必要な22業種には、各団体に対し、自主行動計画の策定や、転嫁状況の調査・改善を要請している。
13日に行われた政労使の意見交換では物流関係団体が自主行動計画を策定・計画中である旨報告があり、トラック関係では価格交渉をサポートする支援策を検討。より価格交渉や価格転嫁を行いやすい環境整備を進めるという。
東京商工リサーチ(TSR)が2月に行った「価格転嫁」に関する調査では、道路貨物運送事業者で原材料や燃料費、電気代の高騰に伴うコスト上昇を「転嫁できていない/転嫁率3割未満」と回答したのは85・7%(全産業68・2%)、人件費(労務費)を「転嫁できていない/転嫁率3割未満」と回答したのはは90・4%(同77・8%)にのぼる。
人件費の価格転嫁は原材料などの価格転嫁以上に、企業にとって高いハードルとなっている。公取委の調査でもトラックなど労務費の高い業種や多重構造にある業種で転嫁が進んでいない実態が明らかとなっている。
3月は「価格交渉月間」。労務費指針は価格交渉に関して発注者・受注者双方の立場から12の行動指針を示している。高い価格転嫁率の実現にはサプライチェーン全体で、積極的に価格交渉・価格転嫁に動くことだ。