動き出す適正運賃収受

1月15日午前2時頃、長野県軽井沢町の国道18号碓氷バイパスで、乗員乗客15人が死亡、26人が重軽傷を負うバス事故が発生した。平日のスキーバスとあって、将来のある若い人が多く亡くなる悲惨な事故だ。

バスを運行していたイーエスピー(東京都羽村市)は、運転者13人中10人が定期健康診断を受けておらず、運行前点呼で健康状態の把握が不十分だったことなどから、同月13日付で20日車の車両使用停止処分を受けたばかりだった。

事故直後に行った特別監査でも、点呼の未実施、運行指示書の未作成、健康診断の未受診、運賃の下限割れなど、ずさんな管理体制が明らかになっている。

国土交通省では、2012年4月に起きた関越道高速ツアーバス事故を受けて、貸切バスの安全対策を強化したが、依然法を守らない悪質な事業者が存在していたかたちだ。

今回の事故では、運転技術の未熟さも指摘されているが、バス事業者が法定運賃の下限である約27万円を大幅に下回る約19万円で請け負っていたことも明らかになっている。

国交省は29日、軽井沢スキーバス事故対策検討委員会を開き、徹底的な再発防止策の検討に着手した。

再発防止策としては、参入時や参入後の安全確保に関するチェックを強化することのほか、運転者の運転技術のチェックの強化、運賃制度の順守など旅行業者を含めた安全確保のための対策強化、衝突被害軽減ブレーキなどハード面での対策強化――などが検討される見通しだ。

関越道バス事故後の行政処分強化などもそうだったが、自動車運送事業全体に共通する課題であり、今回もトラックに波及する可能性がある。

とくに、バス事業者が安い運賃で運行を請け負っていたことも問題視されており、経営環境が似ているトラックについても、安全を担保する適正運賃収受の必要性がクローズアップされそうだ。

取引環境・労働時間改善中央協議会を厚労省と開催している国交省も「協議会のメインテーマは運賃」と位置づけ、労働時間とともに適正運賃収受に焦点を当てる考えだ。

一方、首相官邸や自民党では、中小事業者が賃上げをしやすい環境を作るため、下請等中小企業の取引条件改善に取り組んでおり、トラック運送事業も対象業種となっている。こうした動きも、中小事業者の適正運賃収受を後押ししそうだ。

バスの事故を契機に、世の中の流れが、安全確保のためのコストを反映した適正な価格での取引、適正運賃の収受へと動き出した。