地域・社会のエールを背に
2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会が提言を取りまとめた。キーワードは簡素で滑らかな物流、担い手にやさしい物流、強くてしなやかな物流――。社会が求めている物流の姿といえる。
新型コロナウイルス感染症による環境変化は物流業界にも大きなインパクトを与えたが、社会インフラとしてその果たすべき役割もより鮮明になった。トラック運送業界もエッセンシャルワーカーとして、地域、社会からの大きな期待を背に、その機能に磨きをかけることが持続可能性をより確なものにする。
物流施策大綱は検討会の提言を基に政府が来年度からの次期大綱を策定する。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が大きな肝だ。社会全体でDXへの取り組みが加速化する中で、物流は標準化というクリアすべき大きな課題がある。
ただ、コロナ禍で〝物流を止めない〟危機感は広く共有され、物流標準化に対しても様々な業界で具体的な取り組みが進む。サプライチェーン全体でその機運が高まっていることは確かだ。
無人搬送車や自動倉庫の導入、スタートアップのシステムを活用した配送業務支援、さらに自動配送ロボットの実証と新技術を活用した動きも活発だ。ニューノーマルへの転換がこれを後押しする。急増するECへの対応など、利用者の利便性向上に繋がり、物流改革は社会のニーズに着実に応える。異業種も含め従来の物流の枠を超えた新たな連携もDXの名のもとに進化が期待される。
中小事業者にとってはDXの推進もコスト負担の懸念がある。その利点が明確な先行事例を広く周知して理解を促すだけでなく、積極的に設備投資に踏み込める国の支援策や環境整備が望まれる。
これら物流改革や社会のニーズ対応にも、現場の働き方改革の推進、労働条件改善が必然である。そのためにも2年前に成立した改正事業法をより実効性あるものとしなければならない。「標準的な運賃」「規制の適正化」「荷主対策の深度化」は、昨年はコロナの影響もあり事業者、荷主への周知が進まなかった。標準的な運賃と、荷主対策も働きかけ等の規定は23年度末までの時限措置であることを考えると、まさしく本年はその実効性が問われる。
物流施策大綱の提言にも「トラックドライバーの時間外労働の上限規制適用後、荷物が運ばれなくなる恐れがあることを認識する必要がある」「自身の物流が途絶える危機に対して、トラックドライバーの労働条件の改善が、危機への対応策であることを強く認識すること」と明記されている。
荷主への周知では全日本トラック協会が昨年12月中旬に荷主企業約4万6000社に対しこれら要点をまとめたパンフレットを送付、協力を求めた。物流を止めないために、国も省庁連携で荷主対策に動いており状況を注視しながらより踏み込んだ対応が求められる。
トラック運送事業者も国の支援と社会の理解を受け止め、自社の事業に自信を持ち、適正な運賃・料金収受への働きかけを粘り強く継続する必要がある。
感染拡大により未だ誹謗中傷も受けるが、トラック運送業界に対する地域、社会からのエールは想像以上に大きい。
エッセンシャルワーカーという位置づけが再認識される今こそ、トラックが先頭に立ち、物流の価値をさらに高めていく好機である。