張り詰めた糸は切れる
政府は、安倍首相を議長とする働き方改革実現会議で、長時間労働の抑制に向け、労使が36協定で決める残業時間の上限を、罰則付きの法律で定める方針だ。
14日の会合では、上限を原則を月45時間、年360時間とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間(月平均60時間)までとする政府案を示した。
トラックドライバーを含む自動車運転者は、上限を定めた現行告示の適用除外業種となっており、改正の政府案では、「実態を踏まえて対応のあり方を検討する」とされている。現在は、トラック輸送の特性に合わせて、別途、改善基準告示で運転者の労働時間等が定められ、その遵守が求められている。
これに対し、トラック産別組織である運輸労連は、「トラックを適用除外とせず、上限規制の原則を適用すべき」と主張している。
運輸労連の難波委員長は「労働者は皆平等だ。タイムラグはあるかもしれないが、スタートラインは一緒にすべき」と述べ、その理由として「トラックドライバーが適用除外となれば、(世間から)ドライバーは過労死の対象だよねと思われかねない」ことをあげている。
「労基法制定70年の歴史の中での大改革」(神津里季生連合会長)において、「どうしてトラック運転手だけがこちら側(適用除外)に置かれてしまうのか」(難波委員長)との思いがある。
現在の改善基準告示は、月間拘束時間が293時間、年拘束時間は3516時間に及ぶ。運輸労連によると、時間外労働は年1171時間まで可能で、月にすると97時間強となる。今回の政府案の年720時間、月平均60時間と比べると大きな隔たりがある。
改善基準告示の法制化も考えられるが、現行基準の法制化について同連合会は「3516時間で法制化すると、立法、行政、全ト協、労働組合が『トラックは過労死業種』と認めることになるので、絶対にさせない」(世永副委員長)と否定的だ。
一方、現行の改善基準でさえ「守っていたら荷物を届けられない」という声もあり、トラックの違反率は7割と近年悪化傾向にある。
いずれにせよ、労働時間を短縮する場合、ドライバーの賃金が減らない方法を採らないと人手不足にますます拍車がかかることになる。ヤマト運輸の宅配便総量抑制もそうだが、トラックの過重な労働に支えられてきたサービスや商習慣が限界に来ているのではないか。「張り詰めた糸はいつかは切れる」(世永運輸労連副委員長)のだ。