長時間労働是正のうねり
長時間労働の是正に向け、残業時間の上限規制が浮上している。
安倍首相は1日、官邸で開かれた働き方改革実現会議で、「罰則付きで、時間外労働の限度が何時間かを具体的に定めた法改正が不可欠」と述べ、さらに「誰に対して何時間の上限とするかを決めるに当たっては、いわゆる過労死基準をクリアするといった健康の確保を図った上で、女性や高齢者が活躍しやすい社会とする観点や、ワーク・ライフ・バランスを改善する観点など、様々な視点から議論する必要がある」とも述べている。
政府は、次回の会合で具体的な法改正案を提示し、議論を深めたい考えだ。
労働基準法では、原則的な労働時間の上限を1日8時間、1週40時間と定めており、これを延長する場合は労使が36協定を締結して届け出る必要がある。36協定で延長可能な時間については、「時間外労働の限度基準」(厚生労働大臣告示)で1ヵ月45時間、1年360時間などと定められているが、特別条項を結べば年間6ヵ月までは無制限にできる。告示のため、違反しても罰則はない。
ただし、建設業、自動車運転者、研究開発業務などは適用除外とされている。自動車運転者については、その業務の特性を踏まえ、別途「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が同じく厚生労働大臣告示で定められ、その遵守が求められている。こちらも罰則はないが、過労運転防止の観点から国土交通省が行政処分の対象にしている。
今回の残業上限規制では、原則上限を月45時間、繁忙期は月100時間、2ヵ月平均80時間を認める一方、年間を通じて月平均60時間以内とし、違反には罰則をかける内容と伝えられている。告示を法制化し、新たな上限を設けようというものだ。
適用除外業種についても、一定の猶予期間後適用するとされているが、自動車運転者については、改善基準告示を法制化する動きにつながる可能性がある。
一方、トラック運送業界では、長距離輸送を中心に、より弾力的な運用を求める声が強い。「改善基準遵守は物理的に不可能」とする声さえある。
大手企業社員の過労自殺もあり、世論は長時間労働是正に向けて大きなうねりとなっている。首相の発言からも強い決意が感じられる。一際労働時間、拘束時間が長く、ドライバー不足にあえぐトラック運送業界として、重たい判断を迫られる局面を迎える可能性が高い。