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安全への挑戦―上― 高井戸運送 飯田勇一社長
今年1~8月に営業用トラックが第一当事者となった死亡事故件数は、前年同期に比べ13%減と大きく減少している。このほど鳥取県米子市で開かれた全国トラック運送事業者大会では、テーマごとに2つの分科会が行われ、第1分科会では「トラック業界の交通安全対策」をテーマに、全国を代表する事業者が各社の取り組みを報告した。業界全体の事故減少には、個々の事業者の取り組みが重要となる。各事業者レベルでの安全対策の一端を連載で紹介する。
東京・杉並区に本社を置き、365日・24時間体制で食品低温物流を展開する高井戸運送は、従業員約250人(契約・臨時社員含む)、7事業所、保有台数150台という、業界では中堅規模の運送会社だ。
飯田勇一社長は「10年前までは売上げの拡大を優先し、『事故防止』より『事故処理』をどうするかというレベルだった」と自社の取り組みを振り返る。
安全品質委を設置
同社では、2006年、社内に安全品質委員会を設置。ドライバーに近い人を委員に選出して現場で具体的な取り組みを開始したところ、「事故による信用の失墜をドライバーが自分のこととして考えるようになった」(飯田社長)という。身近な委員からの「伝わりやすい」指摘により、ドライバーの考え方が進化したのだ。
同一ドライバーの事故には、同じ傾向があるため、「最低3回面談し、繰り返し指導すると効果が出てきた」(同)。
現在は、毎年1回、ホテルで安全表彰式を開催している。無事故無違反の従業員を表彰するほか、社内で募集した安全標語を表彰している。
年末繁忙期には、「安全汁」と呼ぶ、社長手作りの豚汁を各事業所を巡回して振る舞う。
社内ドラコンも
無事故報奨金制度も創設し、3ヵ月ごとに現金を支給。デジタコのランキング上位者には報奨金を加算する。
無事故事業所を表彰し、「営業所がチームとして一体感を持ち、皆で事故を減らそうとするなど効果が出ている」(同)という。さらに、5人一組のチームが半年間無事故無違反を達成すると賞金が授与される「高井戸カップ」を開催。セーフティードライバーコンテストも自社で定期開催し、今年2回目を迎えた。
準中型免許の新設に向けては、外部施設を利用して運転指導技能員制度を導入。「誰かに教えられるドライバー」を養成し、新人ドライバー教育などを行っている。
サポートセンター設置
高井戸運送ではさらに、ドライバーのための24時間サポートセンターを設置し、悩みや要望を受け入れる体制を構築した。「事故惹起者と面談すると、悩みを持つ人が多いことがわかった」と飯田社長。「休憩室で何人かの従業員が不満などを話している。社内に蔓延すると職場がすさみ、事故の遠因ともなる。今でこそメンタルヘルスが話題となっているが、話を聞いてあげることで解決策が生まれるかもしれないし、聞いてあげた結果、社内の空気が浄化された」と飯田社長はその効果を指摘する。
真骨頂は「高井戸大学」だ。2015年4月に「開校」し、新卒社員や若手社員が毎月受講してレポートを提出している。学んだ熱が冷めないように、卒業生を含めて1泊のフォローアップ研修も実施している。
当然、安全意識の向上もテーマの1つで、「大学」で学んだことを周囲に発信することで会社全体に伝播することを狙っている。
飯田社長は「事故防止にゴールはない。地道な取り組みを愚直に継続することが大切」と語った。