新車購入に公的支援を

国土交通省が大型車への衝突被害軽減ブレーキ装着義務化を検討している。
 日野とトヨタが2006年に世界に先駆けて開発した装置で、ミリ波レーダーにより、先行車との衝突の危険を予知し、警報と軽いブレーキでドライバーに注意を喚起し、衝突が避けられないと判断した場合には強力な強制ブレーキを作動させて衝突時の被害を軽減させる先進の安全技術だ。
 とくに、2003年6月〜7月にかけて高速道路で渋滞の末尾に大型トラックがノーブレーキで突っ込むといった追突事故が続発したことが、開発を加速させるきっかけになったという。
 衝突速度を時速20km引き下げることにより、被追突車両の乗員死亡件数を約9割減らすことが可能と推計されており、大きな効果が見込まれている。
 ただ、装着費用が1台あたり55万円と高額なため、国土交通省では、2007年度から装着費用の半額(27.5万円)を補助しており、全日本トラック協会も1台につき5.5万円を助成しているが、普及が進んでいるとは言い難い状況だ。
 大型トラックは、今秋からディーゼル車の次期排出ガス規制であるポスト新長期規制が適用され、新車価格の値上がりが見込まれている。そこへ被害軽減ブレーキが義務化されると、補助制度があるとはいえ、車両価格の値上がりに拍車をかけかねない。
 また、義務付けを検討している国土交通省の検討委員会では、「被害軽減の度合いが甘いのでは」と効果を疑問視する意見や「欧州では衝突を回避できる制動をかけるべきとの議論もあると聞く」となお技術的に見直す余地があるのではとの発言もあり、義務付けに当たっては十分な効果の測定が求められよう。
 事業用自動車の死者数半減目標達成に向けた「決定打」とされる被害軽減ブレーキの装着義務化。来年度からすぐにも義務化という検討ペースではなさそうだが、ただでも新車販売が冷え込んでいる中で、車両価格のさらなる上昇は、物量の急減に苦しむトラック運送事業者にとって大きな負担増となり、新車の買い控えを加速させる懸念がある。
 「自動車不況」とさえいわれる現下の経済状況の中で、こうした負のスパイラルが予想される政策の遂行には慎重さが求められる。一方で、交通事故による死者は何としてでも減らさなくてはならない。経済と安全を両立させるためには、新車購入に対する思い切った公的支援が必要ではないだろうか。

(日本流通新聞2009年2月23日付)