世のため人のために

企業の決算発表がピークを迎えている。新光総合研究所が13日現在で発表を終えた東証1部上場企業788社の09年3月期決算を集計した結果、経常利益の合計は前期に比べ60%減少し、純利益は93%減少した。
 昨秋以降の世界的な不況を反映したものだが、その急激な悪化ぶりはかつてないほどだ。
 業種別に見ると、電機、自動車の悪化が目立つ。「電気機器」96社の経常利益は08年3月期の3兆1390億円黒字から5740億円の赤字に転落、「輸送用機器」49社の経常利益も同じく6兆810億円の黒字から3360億円の赤字になった。
 運輸業界を見ると、「陸運」の経常利益は、前期の4・8%増益から15・9%の減益に転じ、10年3月期は25・0%の減益に減益幅が拡大する。「倉庫・運輸」の経常利益も33・6%減益となり、今期も16・5%の減益が続く見通しだ。
 国土交通省の統計によると、営業用トラックの登録台数は1年間で1万5273台減少した。荷動き低迷でトラック運送事業者の減車が進んでいるためと見られている。
 米商務省が13日発表した4月の小売売上高は、前月比0・4%減と2カ月連続で減少した。前年同月との比較では9・4%の減少だ。失業率の上昇など、厳しい雇用環境が続くなかで、家計の慎重姿勢が継続していると見られている。
 世界経済を牽引していた米国の消費は、昨秋の金融危機を境に転換期を迎えている。同時に、サブプライムローン関連の金融商品などに代表される、利益至上主義の米国流企業経営や価値観も曲がり角に来ている。
 邦画の「忠犬ハチ公」や「幸せの黄色いハンカチ」が米国でリメイクされ、今夏公開されるという。日本文化や日本人の価値観が見直されているようだ。鉄道模型が日本でも人気のドイツ模型メーカー「メルクリン」が経営破綻したが、米英が資本を引き上げ、ドイツ人管財人のもとで再建中の同社に対しては「利益至上主義経営から社員重視のドイツ流に戻す好機」と受け止められている、と読売新聞は報じている。
 かの経済学者アダム・スミスさえも、慈悲、正義、寛大さ、公共心といった、利益追求を超えた価値の重要性を指摘していたという。
 企業はもちろん利益を出すことを求められる。とくに現在のような経済情勢では、利益の確保が経営者にとって重要な問題だ。ただ、企業は、株主だけのものではなく、従業員や顧客をはじめ、社会全体のために存在しているのではないか。不況下にあっても「世のため人のため」という価値観を忘れたくない。

(日本流通新聞2009年5月11日付)