行政の役割に期待
国土交通省が、社会保険未加入のトラック運送事業者に対する行政処分状況をまとめて発表した。全国の計44社を処分したもので、このうち4社は従業員全員が未加入だったため、20日車の車両使用停止処分が科された。記者発表の席上、同省の一見貨物課長は「処分することが目的ではないが、行政が毅然と対応していることが伝わり、未加入率がゼロになることを期待したい」とこの政策の狙いを強調した。
社会保険未加入事業者の存在については、トラック業界内でも以前から問題視され、04年8月に、未加入の事実を把握した場合、運輸支局から社会保険事務所や労働局に通報する制度を導入したが、社会保険事務所の対応など実効性に課題があったため、他省庁の所管事項ではあるが、貨物自動車運送事業法で禁じている「事業の健全な発展を阻害する競争」を適用し、事業法違反として行政処分を行えるようにしたものだ。
一部未加入の場合は初回が警告、再違反が20日車の車両停止処分となり、全部未加入の場合は、初回でも20日車の車両停止、再違反は60日車の車両停止処分が科される。
適正化機関の巡回指導結果に基づく社会保険等への未加入率は、08年度で社会保険が24・6%、労働保険で12・2%だ。実数にして、社会保険未加入が5千社程度、労働保険未加入が3千社程度把握されていると見られる。
適正化機関が未加入事業者を確認しても、すぐに国交省に通報せず、指導員による改善指導を行う仕組みになっている。3カ月以内に改善結果報告書を提出するよう求め、その改善報告がない場合に運輸支局に通報する。
今回の処分までの流れのなかでは、社会保険で約5分の1に当たる千社程度が、労働保険で約6分の1に当たる5百社程度が、適正化機関の指導で加入し、改善されている。ただ、なお相当数の未改善事業者がいることになる。
このうち昨年7月から3月末までの間に処分を受けたのは44社だ。氷山の一角といえるが、社会保険事務所などへの照会に時間を要することなどを考慮すると、今後処分される事業者は増えることが予想される。
地方運輸局や運輸支局は、輸送の安全確保に直接影響するような、悪質な事業者に対する監査もしなければならない。マンパワーに限りがあるなかで、効率的な監査も求められるが、法令を遵守せず、不当に運送原価を引き下げるような事業者を市場が排除できないのであれば、行政の役割に期待する以外にない。
(日本流通新聞2009年5月25日付)