緒についた将来像論議
国土交通省の本田自動車交通局長が、懸案となっていたトラック運送事業の将来像についての検討体制とスケジュールを明らかにした。検討会→勉強会→調査会という3段階に分け、概ね2年間をかけて検討を進めるというもので、同局長は「時間がかかるかもしれないが、トラックの将来を見据えた議論をし、その過程で行政のやり方を見直す必要があれば、見直していきたい」と述べている。
本田局長は、「産業として自立していくためにはどうすべきかという産業論として考える必要がある」と述べ、自立への障害として、「トラック事業者は荷主に弱く、下請けは元請けに弱いため、対等の立場での適正な取引がしにくい」、「多数の事業者が競争状態にさらされ、社会保険に入らないとか、5両割れを起こすなど極めて不健全な競争状態にある」ことをあげている。いずれも、現在のトラック行政の大きなテーマとなっている事柄だ。
議論の過程では、規制緩和の見直しや規制、制度のあり方が当然俎上にのぼってこよう。
1990年に施行された物流二法により、トラック運送事業は免許制から許可制に緩和され、運賃は認可制から届出制へと緩和された。その一方で、適正化事業実施機関による事業者指導や、運行管理者試験制度の導入などが図られたが、基本的には多くのことを市場原理に委ねる方向へと舵を切った。
それから20年。事業者の数は1・5倍の6万3千社へと増え、運賃水準は下落の一途をたどった。マクロの視点で見れば、日本経済にとっての物流コストが低減し、国際競争力の強化につながったという見方ができるが、業界内では不毛の運賃ダンピングが後を絶たず、社会保険未加入に代表されるような不当なコストダウンによる「不健全な競争状態」が生じている。
当時の規制緩和論者によれば、不当な競争を引き起こすような悪質な事業者は市場の原理で排除されるはずだった。ところが、市場環境は悪化する一方で、行政も必要なマンパワーを備えることができず、とてもすべてに手が回らないのが実情だ。
今、業界人は「事業者が多すぎる」と口をそろえる。悪質な事業者を市場が淘汰できないのであれば、行政が公正な競争環境整備に乗り出すべきだ。
事業免許制や運賃認可制に戻すことには本田局長も「そんな気は全然ない」と否定的だ。トラック産業将来ビジョン検討の過程では、様々な手法が検討されよう。2年後に向け、検討は緒についたばかりだ。
(日本流通新聞2009年6月1日付)