社保未加入 荷主の抑止力に期待
国土交通省が、社会保険等未加入事業者に対する行政処分開始後1年間の処分状況をまとめた。昨年7月から今年6月までの間に、計87社に対して車両使用停止や警告などの行政処分を科した。3月末集計の処分事業者数は44社だったため、3カ月で倍増した計算だ。
処分件数が増えている背景には、社会保険事務所等に対する照会事務がスムーズに行くようになってきたことが指摘されている。そもそも他省庁が所管する社会保険等への未加入問題に国交省が行政権を持って介入すること自体が霞が関では異例のことだ。年金問題で揺れに揺れた社保庁だが、ここへ来て国交省の処分制度が関係行政機関の間でも浸透してきた、ということなのだろう。
処分件数、とくに車両使用停止処分は、今後さらに増えていく見通しだ。国交省が今年10月から社会保険等未加入事業者に対する処分基準を強化するためだ。処分基準の強化は、従業員の一部が未加入の初回違反であっても、警告ではなく10日車の車両停止処分を科すほか、再違反や全部未加入に対する車両停止処分の量刑を1・5倍に強化するというものだ。
規制緩和論者によれば、法律で加入を義務付けられている社会保険や労働保険にさえ加入しないような悪質な事業者は、本来なら市場原理により淘汰され、このような不当な競争環境は生まれないはずだった。
ところが、市場はこうした違法事業者の存在を許容し、ゆがんだ競争環境を野放しにしてしまった。まさに、規制緩和の影の部分だ。
規制緩和を実行した国土交通省には、こうした影の部分を是正する責任がある。と、ここまで書いて、新たなニュースが飛び込んできた。
国土交通省は、年内にも、荷主団体に文書を発出して、輸送業務を委託する際に委託先事業者が社会保険等に加入していることを確認した上で委託するよう要請していく考えだという。
荷主に対して極めて従属的な関係にあるトラック運送事業者がより健全な事業経営をしていくためには、荷主の理解と協力が不可欠だ。荷主が、「社会保険にさえ加入していないような運送事業者は使わない」という毅然とした態度で取引を行えば、事態は解決の方向に回転するに違いない。荷主企業がそうした取引慣行を浸透させることによる抑止力が大いに期待できる。
公道を職場とするトラック運送事業は、コンプライアンスを通じて国民の安全を守る義務がある。「安かろう、悪かろう」というビジネスモデルは通用しない事業なのだ。
(日本流通新聞2009年8月31日付)