血の通った行政を
国土交通省が1日から、行政処分基準の強化を実施に移した。飲酒運転等の悪質違反については、車両停止日車数を従来の1・25倍に、社会保険等未加入に対しては1・5倍に強化したほか、最低賃金法違反や処分逃れに対しても処分を行えるようにするというものだ。
特に飲酒運転や薬剤等使用運転、救護義務違反(ひき逃げ)に対する車両停止処分は、初回違反でも100日車、再違反なら300日車という厳しいものとなる。
社会保険等未加入に対する処分では、警告処分というものがなくなり、一部未加入の初回違反であってもいきなり10日車の車両停止処分が科される。「30日車未満は自動的に警告処分とする軽減措置」も廃止される。
国交省ではこのところ毎年のように行政処分基準を強化してきており、同省が実施したパブリックコメント(意見募集)には、多くの「異論」も寄せられた。
飲酒運転等の悪質違反に対する処分基準に対しては、「現行量定で十分効果は発揮されている」との反論があり、社会保険未加入に対する処分についても「加入促進は賛成だが、処分は間違っている。実態を調べ、業界の声を聞いてから改正すべき」とする反対意見もあった。
ほかにも、処分逃れ対策について「やり過ぎだ」といった意見、車輪脱落事故を監査対象とすることに対しても「再考願いたい」とする慎重意見があった。
東京都トラック協会もパブリックコメントに応じ、反対意見を提出していたことがわかった。意見書では「処分強化による事故削減効果が検証されておらず、やみくもに基準日車数の強化が行われている」、「処分の強化だけでは事故のない車社会を作ることは不可能」と強く反発する言葉が並ぶ。事故削減効果をデータで明示したうえで強化するのであれば納得も出来ようが、単に基準を引き上げる一方では、事業者も法令遵守への対応に疲れてしまう、との趣旨だ。
ある運送事業者から聞いた話だが、倒産した業者仲間から年配の運転手を引き受けたところ、今さら厚生年金に入っても受給資格を得られるほど長く務められず、手取りも減るので入りたくない、と言われ、従業員のうち1人だけ未加入がいる、という例もあるようだ。決して悪質とはいえないそのようなケースでも、今月からは10日車の車両停止だ。
東ト協の意見書にも書かれているが、「血の通った行政」が必要ではないだろうか。
(日本流通新聞2009年10月05日付)