社説:一刻も早く制度改革を
関越道での高速ツアーバス事故を契機に、「規制緩和と安全」を巡る議論が各方面で活発化している。
国会では、衆参の国土交通委員会で連日のように取り上げられ、主に「規制緩和によって懸念される安全性の担保を事後チェックでカバーするとの考え方が間違いではなかったか」との趣旨の質問が相次いだ。
これに対し国土交通省の中田自動車局長は、「監査要員を10年間で3倍に増やしたが、それでも320人だ。限られた要員で効果的に監査するため、立入検査を抜本的に見直し、監査体制を充実したい」と答弁したが、トラック、タクシーを含めて12万社もの運送事業者をどのように事後チェックするのかについての具体策については言及しなかった。
羽田国交相も、トラックを含めた運送事業全般の規制緩和見直しについて「それぞれの事業について検証し、その結果に基づき適切に対応したい」と述べるにとどめ、具体的な対応策は示していない。
21日の全日本トラック協会決算総会でも「規制緩和と安全」を巡り行政と業界の間で「応酬」があった。
中田局長は来賓としてのあいさつで、「競争が激しくて運賃が安くなり、法令遵守ができないというが、それは違う。それをいうならこの業界から早く撤退すべきだ」と持論を展開し、総会会場を一瞬凍らせた。
その後の懇親会では、中田局長の主張に反論するように星野全ト協会長が「規制緩和により、仕事は増えないのにトラックが増える状態となったことが諸問題の元凶だ。考え直してほしい」と切り返した。
規制緩和は「参入規制など経済的規制を緩和して新規参入が増えても、法を守らない悪質な事業者は市場原理により淘汰される」との考え方に基づき断行された。ところが、今回貸切バス事業者の陸援隊のような法令遵守意識の低い「あっけにとられる事業者」(中田局長)が悲惨な事故を引き起こし、法を守らずにコストを安く抑えた事業者が生き残り社会にとって負の存在となっていることが明らかになった。
市場原理万能論は、安全の確保が最優先に求められる交通運輸事業には必ずしも当てはまらないのではないか。星野会長も「規制緩和をして良い業種とそうでない業種がある」と問題提起した。
昨今の円高で製造業は海外への移転を加速し、国内産業は空洞化の様相を強めている。限られたパイを多くの運送事業者が奪い合う時、様々な歪みが生じ、それが国民の生命に関わる事態を呼び起こしているとすれば、一刻も早くこうした状態を是正する制度改革が必要ではないか。