社説:まずは実態の底上げから
国土交通省が、トラック運送取引の書面化を進めるための省令改正について、当初予定していた7月の公布を見送ることになった。
10日まで実施した意見募集で、業界側から「義務付けには反対」、「あまりにも拙速」などと強く反発を受けたためだ。
同省はまた、業界が求めていた実証実験も行うことにした。荷主企業にも協力を得て、書面化ガイドライン案に沿った書面のやりとりを秋にかけて実際に行い、実状、効果、留意点、課題などを把握したうえで公布の時期や内容を決めるという。
同省は同時に、トラック運送事業に導入する共同点呼についても、委託側営業所にはGマークを要件としないと発表した。原案では受委託側双方にGマーク営業所であることを求めていたが、やはりパブリックコメントで、全ト協がGマークを委託側の要件としないよう求めたことに答えたものだ。
従来、省令改正や通達改正などのパブリックコメントはややもすると形式的で、異論があったとしても原案を変更することはあまりなかった。
ところが最近は、業界の反発や意見を受けて、国交省側が見直しを迫られるケースが増えている。
運行記録計の装着義務付け範囲拡大についても、国交省のデジタコ義務付け案に業界が猛反発。反対署名を提出するまでに至り、同省は当初案を白紙撤回して仕切り直したが、今も検討が進められないままになっている。
なぜ、このように国交省が打ち出す政策に業界が反発し、国交省が見直しを余儀なくされるケースが増えているのか。
国交省が進めようとする政策や制度と業界の実態の間に乖離があるからではないか。また、政策の進め方が規制的な手法に偏ってはいまいか。
すべての営業用トラックにデジタコが装着されているのは理想的かもしれないし、すべてのトラック運送取引が書面化されていることも理想に違いない。ただ、実態は一気にそこまではたどり着けない。
ただでさえ過当競争で企業体力が落ちているなかで、理想ばかりを求められても応えられない。また、バスやタクシーと異なり、トラックの場合は運ぶ荷物や荷主、地域によっても実態は様々だ。
理想は理想として追い求める努力は必要だ。ただ、理想と現実の間に小さくない乖離がある以上、規制的手法ばかりにこだわらず、誘導的な手法でまず実態の底上げを図ることが先決ではないか。