社説:「働き方」に革命的変化を
国土交通省自動車局が、自動車運送事業などの労働力確保対策をまとめた。
ヒト・モノの輸送を担うトラック事業、バス事業、タクシー事業とこれらの事業の安全確保に貢献する自動車整備業は、日本経済および地域の移動手段の確保を支える重要な社会基盤産業だ。
今後、生産年齢人口が減少していくなか、こうした社会基盤産業を支える労働力の確保が重要な課題になるが、成長戦略が進化するなかでボトルネックとなってはならない、という危機感が背景にある。
トラック運送事業をはじめとする自動車運送事業は、中高年層の男性労働力に依存しており、40歳未満の若い運転者が少ない。40歳未満の運転者の割合は、大型トラックで見れば4分の1にとどまる。
労働時間が全産業より1〜2割長い一方、年間所得は1〜4割低い。女性比率もわずか2%程度と低い。
不規則な就業形態、長時間の拘束、低賃金という悪条件で、女性や若者の新規就労が少なく、すでに就労している中高年男性が運転者を続けて業界を支えている。このままでは、現役世代が引退した後、深刻な労働力不足に陥る恐れがある。
このため自動車局の対策では、女性・若者の活用を図るうえで、不規則な就業形態や長時間労働の原因となる、1人の運転者が1つの工程を担う「働き方」を抜本的に改めることが不可欠だと指摘した。
その解決策の1つが、1つの工程を複数人で分担する中継輸送だ。人に優しい「働き方」に変えることで、女性や若者の活用を推進しようというわけだ。
とくに長距離輸送では、その日のうちに帰れない運行は、若いドライバーから敬遠される傾向が強い。
1人のドライバーが全行程を担う運行は、管理が容易で、運転者が少ない中小事業者でも長距離輸送が可能なため、現在の主流となっている。だが、自動車局の対策は、こうした「働き方」が、運転者にとって不規則な就業形態や長時間労働といった前時代的な労働環境を強いられている根本的な原因になっていると指摘し、中間地点で貨物を別の運転者や車両にバトンタッチする中継輸送の導入を提案している。
自動車局では、次世代デジタコなどITを活用した運行管理・労務管理システムを開発して中継輸送の実証運行を行う予定で、来年度概算要求に盛り込むことを検討している。
荷物の都合に人をあわせる「働き方」から、人の都合と荷物の都合をマッチングさせる「働き方」へのパラダイムシフトが求められている。