社説:適正運賃 実現は今をおいてない
日本通運がトラック貸切届出運賃の値上げに踏み切った。改定幅は20%(実質約15%)で、業界全体に大きな反響を呼んだ。
日本流通新聞は9月1日付の社説で「実勢運賃は顧客との個別交渉で決まる。ただ、届出運賃の改定で運賃交渉のスタートラインが引き上げられる」として、日本通運の英断が業界全体の運賃底上げにつながることに期待を寄せた。
その機運が業界に広がりつつあるようだ。静岡県トラック協会はこのほど、約1000社の事業者が集まって緊急集会「人材・安全確保/適正運賃収受の緊急推進大会」を開いた。
大会は、燃料費の高騰や高速料金割引制度の見直し、ドライバー確保難、安全のためのコストアップなどにより経営環境が厳しくなる中、コストに見合った適正な運賃の収受に向けた取り組み機運を高めることが目的だ。
静岡県トラック協会の全会員数は1354社である。このうち約1000社が参加し、「コストアップ費用の運賃転嫁ができないために、ドライバーの確保や賃金アップもままならない」と現状を訴え、コストに見合った運賃の収受に向けた取り組みの必要性を確認した。
いま、製造業では原材料の値上がりや物流費の上昇などコストアップを吸収するため、製品の値上げが目立っている。物流費の上昇は物流事業者の交渉成果を裏付けている。
トラック運送事業者は、燃料費の高騰に加え、ドライバー不足による労務費などのコストアップに苦しんでおり、もはや自助努力で吸収できる範囲を超えている。
トラック運送事業の現状は「軽油インタンク価格は、1990年が平均約61円、直近の今年7月が約121円で、倍になっている。一方、ドライバーの賃金は同じ比較で10%も下がっている」(中堅トラック企業)のだ。
コストアップを吸収し、賃金を他産業並みにするには、コストに見合った適正な運賃の収受しかない。
ある中堅トラック企業は、自社のコストを把握して、採算の合わない取引をしないことを基本に粘り強い交渉を続けてきた。取引停止した荷主との年間取引額は1億5000万円だったが、きっぱりと取引を停止した。その分は、値上げでカバーしたという。
ドライバー不足や車両不足などで需給バランスが崩れている。全日本トラック協会によると、スポット運賃は8月、再び上昇している。今をおいて、適正運賃収受を実現する時はほかにない。