社説:人材に投資し、未来を描け
いま、トラックドライバー不足を背景として、物流に異変が起きているという。異変とは、「荷動きが低調に推移し、原油価格の下落で燃料価格が値下がりしているにもかかわらず、運賃は下がっていない」ことである。
これまでの感覚だと、荷動きが悪化し、燃料価格の値下がりを考慮すれば、トラック運賃は値下げ方向に振れても不思議ではない。
ところが、日通総合研究所の調査によると、荷主企業の物流担当者は出荷量の減少を見込んでいる一方で、トラック運賃は依然値上がりすると予想している。同研究所では、ドライバー不足による需給関係から運賃は下がらないと分析する。
荷主企業はトラックドライバー不足によって、「共同配送やモーダルシフトなど物流の構造を変えて対応する」するなど、従来の「運賃叩き」から転換を迫られているとの見方を示している。
こうした動きは、すでに現実のものとして進んでいる。味の素、カゴメなど食品大手6社は今月2日、食品企業物流プラットフォームを構築することで合意した。背景には、「トラックドライバー不足」と「行政の指導強化の取り組み」など、企業単独では解決困難な物流環境の変化がある。
こうした変化に対応するため食品大手6社は、食品業界全体で課題解決する体制「物流プラットフォーム」構築をめざす。理念には、効率的で安定した物流力の確保と食品業界全体の物流インフラの社会的・経済的合理性を追求することを掲げた。この理念を共有する食品メーカーならば、物流プラットフォームに参画できるとしている。
具体的な取り組みとしては、常温保管商品の6社共同配送はじめ、物流拠点の共同利用や配送を集約するなど輸送効率の向上を図る。また、中長距離幹線で鉄道やフェリーによる共同輸送の再構築、物流システムの標準化なども検討する。
トラックドライバー不足は、食品メーカー業界の物流体制を構造から変えようとしている。従来は各企業が個別の物流体制で課題解決してきたが、業界全体で課題解決する体制に変える取り組みだ。
日通総研に依頼が寄せられるコンサルティング案件からは、「荷主企業の物流担当者は、運賃単価を叩くことが仕事のようなものだったが、最近はそういう感じでなくなっている傾向が明らかだ」という。
トラック運賃が下がらない時代になったのか。ただ、経営者が増益分を人材に投資しなければ、産業としての未来も描けないのではないか。