社説:「物流への配慮」定着に期待
厚生労働、国土交通両省は、トラック運送事業の長時間労働を改善するため、荷主など関係者からなる中央協議会を立ち上げた。
月60時間超の残業に対する割増賃金率の引き上げ(25%→50%)が中小企業に適用されるのを機に、とくに総労働時間が長いトラック運送事業の労働時間短縮を進める必要があると判断したものだ。
厚労省によると、残業が月60時間を超える労働者の割合は、全産業平均で大企業が8.1%、中小企業では4.4%だが、自動車運転従事者は大企業が40.6%、中小企業が42.2%と桁違いに高い。
また、過労死認定数ともいわれる、労働災害の脳・心臓疾患支給決定件数は、年間300件程度だが、その3分の1を自動車運転従事者が占めている。
これまで、荷主を含めた世の中は、トラック輸送を安く、自由に使い過ぎてきたのではないか。荷主に言われるがままの運賃で、何時間でも働いた結果、トラック輸送の現場で働く人たちの労働条件が悪化し、今日の人手不足を招いているのではないか。この状態を放置すれば、将来、トラック輸送の担い手がいなくなってしまうのではないか。
トラック輸送の長時間労働改善は、2015年度から2018年度までの4年間かけて進める壮大なプロジェクトだ。一業種の労働時間短縮に国を挙げて取り組むことも異例のことだ。
20日の中央協議会で、学識経験者の1人が「日本の産業は効率化が強みだが、トラック輸送の犠牲のもとで成り立っているのであれば、システムの改善が必要だ」と指摘すると、これを受けて発言した荷主代表委員は「ドライバーの負担を軽減できる事例を1つでも提供することが私の役割」と理解を示した。
また、別の荷主代表委員は、「荷主が考慮すべき部分もある。商習慣的に月曜の朝一で顧客に納品することが多いが、集中するので、社内でも平準化を検討し始めた」とする発言もあった。
一方、別の学識経験者は「トラックの長時間労働是正は、難しいテーマだ。長年の商慣行が荷主の仕組みの中に定着していまい、長時間労働になる状況が作られてきた」とこの問題の根深さを指摘した。
長年にわたり、荷主や世の中にとって都合の良いように作られてきた商慣行を、物流に配慮したものへと見直す時期がきた。荷主にとって長年の慣行を見直すことは容易ではないかもしれないが、世の中が少しずつ物流のことを考え始め、物流に配慮した考え方が定着していくことに期待したい。